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鹿児島地方裁判所 昭和38年(行)2号 判決 1967年7月10日

原告 谷山履物合名会社

被告 鹿児島税務署長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、「被告が昭和三五年一二月一七日付をもつてした、原告の昭和三〇年二月一日から同三一年一月三一日までの事業年度の所得金額を五九五万八、三〇〇円、留保所得金額を一九四万五〇〇円、法人税額を二五五万二、三七〇円と再更正し、かつ、過少申告加算税額を六、四〇〇円、重加算税額を一〇七万円と決定した処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告は履物販売業を営む法人で、昭和二九年二月一日以降青色申告書を提出することについて政府の承認を受けていたが、昭和三〇年二月一日から同三一年一月三一日までの事業年度(以下「係争事業年度」という。)の所得金額を六三万五、九〇〇円として法人税の確定申告をしたところ、被告は昭和三一年六月一日付をもつて、右所得金額を五七万八、九〇〇円、法人税額を二一万一、八九〇円と更正した。

二、ところが、被告は、昭和三五年一二月二七日付をもつて、係争事業年度の所得金額を五九五万八、三〇〇円、留保所得金額を一九四万五〇〇円、法人税額を二五五万二、三七〇円と再更正し、かつ、過少申告税額を六、四〇〇円、重加算税額を一〇七万円と決定し(以下これを「本件更正処分」という。)、本件更正処分の通知書は、同月二八日原告に到達した。

そこで、原告は、昭和三六年一月二五日本件更正処分を不服として被告に対し再調査の請求をしたところ、被告は同年四月一七日付をもつてこれを却下したので、原告は、さらに同年五月二日熊本国税局長に対し審査の請求をしたが、同局長は同三七年一一月二九日付をもつて右請求を棄却する決定をし、同決定の通知書は同月三〇日原告に到達した。

三、しかしながら、本件更正処分の通知書には、当時の法人税法第三二条後段に規定する理由の附記が全然なされていないので、本件更正処分は違法である。

四、仮に、右主張が容れられないとしても、被告は、原告が係争事業年度において、その備付帳簿に五〇〇万円の所得を脱漏して計上し、これによつて取引の一部を隠べいしたものと認定し、その根拠を係争事業年度の簿外預金の期首現在額と期末現在額との差額に求めて本件更正処分におよんだものであるが、原告が当該年度に帳簿計上を脱漏した所得金額は一〇〇万円足らずであり、残りの約四〇〇万円については、そのうち約一〇〇万円は係争事業年度中における原告代表者個人の、約三〇〇万円は係争事業年度の前の事業年度以前における同人ないし同人の亡父の所得である。したがつて、係争事業年度における原告の所得は、被告の最初の更正にかかる所得金額五七万八、九〇〇円に右脱漏所得金額一〇〇万円足らずを加算し、たかだか一五七万八、九〇〇円であるから、本件更正処分には、右金額をこえる金額を原告の所得となした違法がある。

五、また、本件更正処分は青色申告に対するものとしてなされるべきであるから、当時の法人税法施行規則第一四条により、貸倒準備金は期末の受取債権額の千分の二十以内でその計上を認められており、右規則にしたがつて計算すると、計上さるべき貸倒準備金の額はほぼ一〇万円となるところ、被告が右貸倒準備金の計上を否認してこれを所得金額に加算したのは違法である。

よつて、本件更正処分は取消さるべきであると述べ、被告の主張に対する答弁および反論として、

一、(一) 被告主張の一の(一)記載事実のうち、青色申告書提出承認の取消(以下「青色承認取消処分」という。)の通知書が被告主張の日に原告に到達したことは認めるが、右処分が被告主張の日になされたことは知らない。

(二) 同一の(二)の記載事実のうち、原告が青色承認取消処分に対して異議の申立てをしなかつたこと、右取消処分の通知を受けた後本件更正処分についてだけ再調査の請求をしたこと、右取消処分後原告が修正申告および確定申告を、いずれも青色申告書以外の申告書(以下これを「白色申告書」といい、白色申告書による申告を「白色申告」という。)によつてしたことの各事実は認めるが、その他の事実は争う。

(三) 被告は、青色承認取消処分を本件更正処分の日よりも前の昭和三五年一二月一九日に決定していたから本件更正処分の通知書には理由附記の必要はないと主張するが、仮に青色承認取消処分が右の日時に決定されていたとしても、それはまつたく被告の行政庁内における内部決定にすぎないから、そのような内部決定だけで原告が白色申告の納税者に変化する道理はない。青色承認取消処分も更正処分も、その通知が被処分者に到達したときにはじめて努力を生ずるものであり、そのことは被処分者があらかじめ当該処分のなされることを察知していたか否かに関係がないのであるから、青色承認取消処分の通知が原告に到達する前に送達された本件更正処分の通知書には、当然青色申告法人に対する処分として、理由を附記しなければならなかつたのである。

被告は、原告が青色承認取消を自認したというが、まず、同取消処分に対して異議を申し立てなかつたからといつて、それによつて、同取消処分を承認したことにならないことはもちろんのこと、本件更正処分の理由を原告において諒承したことにはならない。かえつて、原告は本命たる本件更正処分そのものに不服をとなえているのであるから、たまたま青色承認取消処分に対する異議申立てを怠つたことを攻撃するのは当を得ないというべきである。つぎに、原告が青色承認取消処分の通知後白色申告書による修正申告等をなし、その修正申告に定期預金を計上したのは、つぎの事情によるものである。すなわち、原告代表者は、長期にわたる税務調査にうんざりしていた折、鹿児島税務署の係官から、修正申告をしないと更正処分をするほかなく、更正処分の税額は修正申告の場合に比して莫大な金額となるから今のうちに修正申告をするよう説示されて、これ以上の煩雑を免がれるために、やむなく妥協し、係官が下書きしたものをそのまま書き写して修正申告書を提出するに至つたものである。

被告はまた、本件更正処分通知書の理由附記欠缺の瑕疵が治ゆされたと主張するが、元来青色申告制度は、税務行政の合理化、円滑化をはるために政策上認められた制度であり、実体面に属する更正ないし決定とは必然的な関係を有するものではない。したがつて、被告の主張するような、青色申告承認取消処分が更正処分の前提手続として「予定されている」という見解は誤りである。青色承認取消処分について異議の申立てをしなかつたからといつて、これをもつて本件更正処分の理由を原告において諒承したことにならないことは前述のとおりであり、青色承認取消の効力も更正処分の理由附記欠缺の違法まで治ゆするものではないから、いかなる意味においても本件更正処分の瑕疵が治ゆされるべきいわれはない。ちなみに、本件更正処分を審査した熊本国税局長も、青色申告によるものとして本件を取り扱つている。

二、(一) 被告主張の二の(一)、(二)各記載事実のうち、原告が係争事業年度において、その備付帳簿に五〇〇万円の所得を脱漏して計上し、これによつて取引の一部を隠ぺいしたとの事実については、一〇〇万円弱の所得を脱漏したことは認めるが、残額約四〇〇万円の部分は否認する。右約四〇〇万円のうち約一〇〇万円は係争事業年度における原告代表者個人の、残りの約三〇〇万円はその前の年度以前における同人ないし同人の亡父の所得である。そして、原告代表者の個人所得は、主として株式の売買によるものである。別紙記載の定期預金の推移の大要ならびに原告が被告主張の定期預金の一部と同じ名義で普通預金口座を設け、これを原告の取引用に利用していたことおよび原告が購入した宅地三筆の買受代金の一部を右簿外預金から支払つたことは認める。しかし係争事業年度の簿外預金期首九〇〇万円のうち約八〇〇万円は原告が設立された昭和二五年から同二九年末までの原告の所得であり、残りの約一〇〇万円は昭和二四年中における原告代表者個人の営業による所得である。

(二) 被告は、個人の預金と会社の簿外預金とは明確に区別されたものでなければならないはずというが、もともと原告は個人企業をそのまま合名会社組織にしたもので、会社といつても個人会社同然のものであるから、個人企業時代の所得をその後設立された原告の所得と区別しておく必要を感じなかつたため、前者を原告の簿外資産に繰り入れたものである。しかも、原告の昭和三二年度ないし同三六年度の五箇年間の平均所得は一六九万円余りであつて、平常の年間所得は二〇〇万円足らずであるから、係争事業年度の所得がその約三倍にもおよぶ五九五万八、三〇〇円であるとするならば、それは原告にとつてきわめて異常な現象であるといわなければならない、しかるに、被告は、係争事業年度において、原告に右のような異常な所得を生ずる原因があつたことを示すべき合理的な資料を何ら示すことなくして、ただ乙第七号証末尾掲記の僅かな疑いだけをもつて、直ちに薄外預金をすべて原告の所得と認定しているのであつて、このような認定方法は独断である。原告には、係争事業年度に右のような異常な所得を生ずるような現象は全くなく、その業態および営業実績はその後の数年間と特に異るところはないのである。

と述べた。

(証拠省略)

第二、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、「請求原因一、二各記載事実および三のうち本件更正処分の通知書に当時の法人税法第三二条後段に規定する理由の附記のないことは認めるが、その他の主張事実は争う。」と述べ、主張として、

一、(一) 原告は、後述のとおり、係争事業年度における所得五〇〇万円を脱漏して備付けの帳簿書類に所得を計上し、よつて取引の一部を隠ぺい仮装していた。そこで、被告は、昭和三五年一二月一九日、原告に対する青色申告書提出の承認を右隠ぺい仮装の事実があつたと認められる係争事業年度までさかのぼつて取り消す旨の決定をし、右決定の通知書は同三六年一月一六日原告に到達した。そうして、本件更正処分は、右青色承認取消処分後の同三五年一二月二四日に同取消処分によつて原告が白色申告による法人となつたことを前提としてなされたものであるから、本件更正処分の通知書には、もはや理由附記の必要はなく、同処分はなんら違法ではない。

(二) もつとも青色承認取消の通知の送達が本件更正処分通知書の到達よりも後となつているので、仮に右(一)の主張が認められないとしても、原告はそのころ青色承認取消処分それ自体に対してはなんら異議申立てをせず、同取消処分の通知を受けた後である昭和三六年一月二五日に本件更正処分に対してのみ再調査の請求をしており、また、右取消処分後原告から提出された修正申告および確定申告はいずれも白色申告としてなされているから、原告は青色承認取消を自認したものというべきである。したがつて、青色承認取消処分は当然確定されたものというべく、こうして原告は白色申告の納税者となつた以上、もはや青色申告者のみに与えられた理由附記の要件を要求しうる資格を有しないものといわなければならない。

(三) 仮に以上の主張が認められず、本件更正処分の通知書が送達された時点において、右処分に理由附記欠缺の瑕疵があるとしても、本件更正処分の手続のように、原告が五〇〇万円の所得を隠ぺいしていたという事実を共通基礎として、青色承認取消処分と白色の更正処分が相前後してなされることが予定されている場合においては、仮に先行する処分に瑕疵があつたとしても、右処分が原告によつて承服されたと認められる事情が存し、かつ、原告に何ら不利益な結果が生じない以上、青色承認取消の通知が原告に到達してその効力が生じた時に、右瑕疵は治ゆされたものというべきであるから、結局本件更正処分には取消されるべき違法はない。

(四) なお、原告は貸倒準備金の計上を被告において否認したことを違法というが、貸倒準備金の計上が認められるのは青色申告の場合に限られることは法令上明らかであるところ、本件が白色申告取扱いであることは、これまでに主張したとおりであるから、被告が貸倒準備金を否認したことには何らの違法も存しない。

二、被告が、原告に係争事業年度における五〇〇万円の所得隠ぺいの事実ありとして、本件更正処分におよんだ理由は、つぎのとおりである。

(一)  被告が本件更正処分をした昭和三五年一二月二四日当時判明した係争事業年度から昭和三五年度までの原告の簿外資産の状況は、別紙のとおりであつた。原告は、これら簿外預金を担保として、その名義人を同じくする普通預金口座を設け、原告が取引先と取引した場合の代金の支払や入金などに屡々利用したり、原告が購入した宅地三筆の買受代金の一部を右簿外預金から支払つたりなどしていて、これら簿外資産は、その発生消滅において相互に交流し、相関連して同一の簿外資産の流れをなしていたものである。

(二)  被告は数十日におよび調査の結果右簿外預金等を発見し、係争事業年度の期末現在額一、四〇〇万円と期首現在額九〇〇万円との差額五〇〇万円が係争事業年度における原告の仮装隠ぺいの所得金額であると認定して、本件更正処分をした。

(三)  右調査の段階において、原告は、右簿外預金のうち約五〇〇万円ないし六〇〇万円は個人の預金であると主張したので、その収入源につき被告から屡々釈明を求めたにもかかわらず、原告からは、なんら納得できる説明あるいは具体的な資料の提出がなされなかつたし、係争事業年度において原告代表者個人が不動産等を処分したような事実も認められず、また、係争事業年度の前年度に至るまでの原告代表者個人または同人の亡父の個人所得については、その発生原因を裏付けうる資料はなかつた。また、原告主張どおりの個人預金があるというのであれば、個人預金と原告会社の簿外預金とは明確に区別されたものでなければならないはずであるのに、前記簿外預金はすべて架空人名義のものであり、明らかに原告代表者の預金であると認められるものは存在しない。

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、原告が履物販売業を営む法人であり、昭和二九年二月一日から青色申告書を提出することについて政府の承認を受けていたこと、原告が係争事業年度の所得金額を六三万五、九〇〇円として(青色申告書による)確定申告をしたところ、被告は原告主張どおり更正したうえ昭和三五年一二月二七日付をもつて本件更正処分をし、同処分の通知書が同月二八日原告に到達したこと、本件更正処分について、原告主張のとおり、原告から被告への再調査の請求、これに対する被告の却下決定、さらに原告から熊本国税局長への審査の請求、これに対する同局長の棄却の決定がそれぞれなされ、右審査決定通知書が原告主張の日に原告に到達したこと、はいずれも当事者間に争いがない。

二、原告は、本件更正処分の通知書に理由の附記がなかつたから、同処分は違法なものとして取り消されるべきであると主張するので、この点について判断する。

(一)  本件更正処分の通知書に当時の法人税法第三二条後段に規定する理由の附記が全然なされていないこと、被告が原告に対し青色申告書の提出の承認を係争事業年度以降取り消す旨の処分をし、同処分の通知書が昭和三六年一月一六日原告に到達したこと、の各事実は当事者間に争いがない。右青色承認取消処分のなされた日が被告主張のとおり昭和三五年一二月一九日であることは、証人右田重光の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証および右証人の証言によつてじゆうぶん認められる。右にみたとおり、これらの処分および通知の時間的順序は、(イ)昭和三五年一二月一九日に青色承認取消の決定、(ロ)同月二七日に本件更正処分、(ハ)同月二八日に本件更正処分通知書の原告への到達、(ニ)昭和三六年一月一六日に青色承認取消処分通知書の原告への到達、という順序である。

(二)  さて、課税処分や青色承認取消処分の如き行政処分は、行政庁の内部的な意思決定と処分としての外部に対する表示をそなえることによつて有効な処分として存立するもので、それが被処分者に対する通知を要するものであるときは、その処分の通知が被処分者に到達したときにはじめて該処分の効力が生ずるものと解すべきところ、青色承認の取消をなしたときは当該法人にこれを通知することを要することは当時の法人税法第二五条第八項の明定するところであるから、本件における青色承認取消処分がその効力を生じたのは、同処分の通知が原告に到達した昭和三六年一月一六日であつて、それまでは原告は青色申告の納税者であつたものといわなければならない。したがつて、本件更正処分当時は原告は青色申告の納税者であつたのであるから、本件更正処分の通知書には、当時の法人税法第三二条後段所定の理由の附記が必要であり、これを欠いた本件更正処分は、その点において違法であつたといわなければならない。

(三)  しかし原告が青色承認取消処分に対してはなんら異議申立てをせず、右取消の通知を受けた後において、本件更正処分に対してのみ再調査の請求および審査請求をしたこと、青色承認取消後原告から提出された修正申告および確定申告は白色申告としてなされていること、は当事者間に争いがなく、加えるに、証人右田重光の証言によつていずれも真正に成立したものと認められる乙第一、第七号証に右証人の証言および原告代表者尋問の結果の一部を総合すれば、前記青色承認取消処分は、被告の係官が、原告の簿外預金その他の資産を原告会社事務所等において慎重調査の結果、原告が備付帳簿に係争事業年度における所得の一部を隠ぺいしていたという事実に基づいてなされたものであり、そのころ原告代表者自身そのことを十分諒知していたこと、および本件更正処分は、同じく右隠ぺい事実を基礎とし、かつ、手続上被告において右青色承認取消を前提としてなされたものであることが認められる。従つてこのような事実関係のもとにおいては本件更正処分の取消をしないからといつて、原告に特別の不利益をもたらすものとはいいがたいからこれを取り消すだけの実益に乏しく、本件更正処分における理由附記欠缺の瑕疵は前記青色承認取消通知の到達によりすでに治ゆされたものというべきである。

(四)  そうすると、通知書に理由附記のない瑕疵を理由として本件更正処分の取消を求める原告の請求は結局失当というべきである。

三、次に、原告は、係争事業年度において原告が脱漏した所得を五〇〇万円と過大に認定した違法があると主張するので、この点について判断する。

(一)  前記乙第七号証にいずれも成立に争いのない乙第六号証、乙第九号証の一ないし三、乙第一〇号証の一ないし五、乙第一一号証の一ないし三、証人斎藤常治の証言により真正に成立したと認める乙第九七号証ならびに右両証人および証人上熊須重雄の各証言を総合すれば、係争事業年度の期首簿外資産の現在額が九〇〇万円、同期末現在額が、一、四〇〇万円であることを含む原告の簿外資産の状況の詳細が別紙のとおりであること、これら簿外資産がその発生消滅において相互に交流し、相関連して同一の簿外資産の流れをなしていたものであること、の各事実が認められ、原告が右定期預金の一部と同じ名義で普通預金口座を設け、これを原告の取引代金決済などに利用していたこと、および原告がさきに購入した宅地三筆の代金の一部を右預金中より支払つたことは当事者間に争いがない。したがつて、簿外資産については、係争事業年度の前記期末現在額と期首現在額との差額五〇〇万円が益金と推計されるのであるから、結局他に特段の事情がない限り右の金額が係争事業年度における原告の仮装隠ぺいの所得金額であると認められる。

(二)  右の点につき、原告は、仮装隠ぺいした所得金額は一〇〇万円足らずであり、残りの約四〇〇万円中約一〇〇万円は係争事業年度中における原告代表者個人の、約三〇〇万円は係争事業年度の前年までの同人ないし同人の亡父の個人所得である旨抗争するけれども、右主張にそう証人谷山定治の証言部分および原告代表者尋問の結果は、前掲各証拠に照らし、いずれもそのままには受け取れず、成立に争いのない甲第一四号証、証人枝元テル子の証言によつては右主張事実を認めるに足りず、他にこれを認めて前段の認定を左右するに足る証拠はない。

(三)  さらに、原告は、貸倒準備金の計上を被告において否認してこれを係争事業年度の所得に算入したことが違法であると主張するが、貸倒準備金の計上が認められるのは青色申告の場合に限られることは法令上明らかであるところ、本件が白色申告によるものとみなされて処分されたものであること前記のとおりであるから、被告が貸倒準備金を否認したことには何らの違法も存しない。

(四)  そうして、前記脱漏所得金を除いた場合の係争事業年度の原告の所得金額が五七万八、九〇〇円であることは当事者間に争いがなく、これに前記認定の脱漏所得金額五〇〇万円を加えた合計五五七万八、九〇〇円が係争事業年度における原告の所得となるから、右金額につき法人税法所定の税率による法人税額、前記脱漏所得を基礎としてなされる同法所定の過少申告加算税額、重加算税額がいずれも本件更正処分のとおりであることは計数上明らかであるから、本件更正処分にはなんらこれを取消すべき違法の点は存しない。

四、よつて原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本敏男 吉野衛 久保園忍)

(別紙省略)

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